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これまでの講義中心の教育は、全ての領域について網羅して教育していたが、それを理解してくれる学生は少ない。また学生の教育における姿勢が講義を聞くという「受け身」になっている。PBLの利点は学生が知識を得ることに、問題を解決していくことに積極的になることである。その姿勢を身に付けることである。これまでの教育方法とPBLを比較した場合に学生の知識レベルはPBLで教育した学生の方が高くなっているという報告がある。
教育方法の実際
歯学部5年間のカリキュラムの中で各年には40週がある。40名の学生が毎年入学してくる。8名を一つのグループとすると全学で25のグループができる。原則として1週間に一つかいくつかの科目に関しての症例が供覧される。例えば、単純性ヘルペスの場合には微生物学と口腔外科学と口腔病理学の科目にまたがることになる。典型的には各グループには一人のチューターをつける。チューターは個々の症例についての特別の知識は必要とされない。
学生たちは1週間に一つの症例を検討する。そして、週の最後に行われるセミナーの前に問題点についての専門家のセミナーを要求することもできる。
PBLの臨床での履行は包括的な歯科学である。基本コースに先立っていくつかの修練がある。各学期ごとに一人のスタッフが教育について責任を持ち、そして一人のスタッフが試験について責任を持つ。限られたスタッフの中では3学期ではスタッフの数が十分といえない。原則方針として講義はない。しかし、臨床に際してはいくつかの例外的な講義が行われる。
北欧での歯科疾患の減少
北欧における問題点は、歯周病学の普及などで抜歯の症例が少なくなっていることである。学生たちに減少している歯科疾患のすべてを網羅して供覧させることはできない。この点では口腔外科がもっとも大きな影響を受けている。北欧では口腔外科手術の大半がインプラントに関連した手術になっている。口腔外科医師の数も少ないし歯学部教育の中における比重も低い。
臨床実習で困るのは患者が少ないことである。この国では歯周病の治療は口腔衛生知識が普及しているために抜歯の症例が極めて少ない。抜歯だけでなく歯科自体の患者が少ない傾向にある。マルメ大学歯学部は閉鎖されることになって学生募集もやめていた時期があった。しかし、政府は政治的な理由で歯学部を閉鎖することができなかった。学生募集は再開されたが学生定員は大幅に削減された。
PBLの問題点
PBLの欠点についていうと、まずスタッフが足りないことである(マルメ大学歯学部には教授は12名しかいない)。学生定数が削減されたから可能になった一面もある。すべての教官を教育にあてているがいろんな問題がある。各グループに指導教官(チューター)をつけるが、学生の指導にあたる教官は必ずしも専門家ではない場合がある。その人の適正の問題もある。基礎医学の教官が臨床が主体の高学年のチューターになることもあるし、その逆に低学年のチューターに臨床の教官があんることもある。しかしチューターは直接教えるわけではないのだが、教育スタッフの問題が一番大きい。
チューターはどの学生がよく勉強し、どの学生が勉強していないかをチェックすることも重要な仕事である。グループ学習であるために、グループ間の能力の問題もあるが、この国では歯学部に入学してくる学生の質はかなり高いので大きな問題とはなっていない。しかし、グループによって早く与えられたテーマを片付けてしまったために、次をすぐにテーマを与えられると学生から不満がでたりすることがある。
次に学生たちを学内でみることが少なくなった。学生たちは講義がないので図書館や自宅で学習している。そのため、教官と学生とのつきあいも少なくなった。学生たちと一緒に飲んだりする個人的につきあうような慣習もなくなってきた。それは教育職としては寂しいことである。また、1年生と5年生では背景となる基本的な知識の幅が違う。こうしたいい面もあり悪い面もある。まだまだ変わっていくだろうと思う。
参考資料:マルメ大学歯学部のカリキュラムの詳細についての論文
Madeleine Rohlin, et al.
The Malmo model: a problemーbased learning curriculum in undergraduate dental education.
European Journal of Dental Education 2: 103ー114, 1998.
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