英国の歯学部では歯学部2年生を修了した時点で、希望者は医学・歯学の研修を受けることができる制度があります。研修期間は大学によって異なっていますが1年間の期間が多いようです。これを修了するとScience Undergraduate (Bachelor of Sciences: BSc、または、Intercalated BSc)という資格を修得することができます。

 また、Socratesと呼ばれる海外の姉妹校との交換留学制度も多くの大学で行われています。期間は2ー3カ月が多いようです。研修終了後に研修先での研修証明書が求められます。


 ヨーロッパでの教育の特徴の一つがこのCALです。欧米においてはコンピューターの利用が大きな比重を占めています。学生たちは図書館や情報センターに多数設置してあるコンピューターを用いてCALの教育を受けます。講義や実習前に受けておくことが義務付けられている場合もあります。

 The British Society for Computer Assisted Learning in Dentistry (BSCD)という学会が1995年に設立され、Journal of Computer Assisted Learning in Dentistryという雑誌が発刊されています。

参考:Conputer Assisted Learning for General Dental Practioners
Stephen Porter, David Pollard, Crispian Scully
1998 Eastman Dental Institute for Oral Health Care Sciences

   An encyclopedia of oral mucosal lesions.
   Tony Axell
   Produced by ITーMedicine AS. Lybekkveien 37A, Nー0385 Oslo, Norway.
   オスロ大学のAxell教授が作成したCDROMで、口腔病変300種類を1100枚のカラー写真で紹介しています。
   http://www.worldserver.pipex.com/worldental/pubs/orderfor.htm

 学生たちは、コンピューター画面に向かい、ステップアップ形式でCALを受けます。模擬的な患者の診察のプログラムや病理組織写真の診断などのプログラム、紹介状の書き方や評価をするプログラムもあります。補綴の実習に入る前の学生たちが受けるプログラムでは、画面に老人の顔が出てきてその診察を行っていきます。そして、カルテに学生が診察結果として選んだ記述が添付されていくようになっています。手術の手順を選択させていくプログラムや口腔病変の写真から病名を選ばせるプログラムもあります。

 理解程度を確認する試験のプログラムも用意されており、開始時に学生番号を登録することで成績の集計まで自動的に行われ、学生の何割が正解をだし、どの問題が理解できていないかが評価できるようになっています。

 実際にやってみると、かなりよくできています。埋伏智歯抜歯の切開線の設定一つについても幾通りもの方法を示し、どれが適切であるかという質問や、縫合する際にどの部分を縫合するのが適切かといった質問がなされてきます。

参考資料:
The British Society for Computer Assisted Learning in Dentistry (BSCD)
http://www.derweb.ac.uk/bscd/index.html

Dental student assessment of learning programmes.
David J. Lamb and Joyce Godfrey
European Journal of Dental Education 3: 10ー14, 1999.


 PBLはカナダのMcMaster大学で医師のトレーニングとして行われ始めた教育方法です。そしてやがてHarvard大学、Lund大学など多くの大学で医学教育に使用されるようになってきました。PBLは学生たち自身に彼等の学習についての責任を持たせるやり方です。その名前が示すように、学習し問題を解決していくことが中心のコンセプトです。

 PBLは、1980年のBarrowsの報告によると「問題の理解と解決に向けての作業過程から得られる学習」と定義づけられ、この学習法の特徴は、学生たちが「実生活(Real life)」の問題と与えられた困難な仕事の解決を求めていくことと説明されています。

 これは従来の教育方法とはかなり異なっています。例えば講義はごく稀にしか行われません。学習は将来彼等が歯科医師として取り組む際に問題となるような現実的な状況の問題が取り上げられます。

 PBLの主な目標は、統合された知識基盤の修得。臨床内容を含んだ知識の利用。自分で決めていく問題解決の技能の発展、の3点であるとされています。

 具体的にはどうするかというと、
1)学生は少人数のグループに分けられ、一人のチューター(指導教官)がつきます。
2)そのグループに毎週月曜日に一人の患者を供覧します。
  例えば口腔粘膜の白色病変とします。
  ・この患者は何が問題なのか?
  ・この患者にはこの病変によってどういう障害や苦痛があるのか?
  ・これはどういう病態であるのか?
  ・それはどのように治療されるべきものなのか?
3)チューターにより問題提起が行われます。チューターはその分野の専門家とは限りませんから一般的な問題提起しかできません。
4)これらに対する学習は、図書館、書籍、CD ROM、インターネットを用いて行い、必要によっては学生たちが直接に専門家を訪れセミナーを求めることもできます。学生たちの自主的な指向による問題解決が原則なのです。
5)毎週金曜日にこの問題に対する学生からの報告がセミナー形式で行われます。
6)チューターは学生たちが自主的に学習を進めているかどうかのチェックをします。
  チューターは問題に対して具体的な指導は行いません。正解も示しません。チューターの仕事は、学生たちが問題解決の努力を怠っていないか、この問題についてどのような方法で解決していこうとしたか、どの学生が熱心でどの学生は取り組んでいないか、といった学生の学習態度についての評価を行うことです。

 問題解決のためには、口腔解剖学の知識、生理学などの口腔粘膜の機能に関する知識、正常な口腔粘膜についての組織学の知識、白色病変についての病理学の知識、切除や薬剤による治療が必要となると口腔内科学、口腔外科学、薬理学、薬剤処方学、放射線医学の知識が必要になるかもしれません。また、前癌病変と患者に説明することで、患者の置かれている家庭環境や心理面でのサポートが問題とされるかもしれません。
 これらの問題解決は、従来の一つの学問分野では困難で「統合された知識基盤」という意味がここにあります。

 「実生活の」という意味は、ある患者を目の前にしての病変の問題を考えることにあります。知識だけでなく治すにはどうしたらいいのかという「臨床内容を含んだ知識の利用」を求められるのです。

 この問題解決を数日間でできるでしょうか?
 「与えられた困難な仕事」とはわずか数日間のうちにこの問題を解決してセミナーで報告しなければいけないことです。これは容易な仕事ではありません。特に歯学部に入学したばかりの学生にとっては大変な作業になります。
 
 このPBLは卒業を目前にした臨床実習の学生にはよい方法かもしれませんが、これを5年間の歯学部教育で最初からしている大学もあるのです。

 この方法の趣旨は、これまでの講義が中心の「Teaching」から学生たちに自主的に学習することを教える、学習の仕方を身に付けさせる「Learning」へと変わっていることです。問題に直面したときにどのようにその問題を解決していくかの「問題解決のための方法」を身に付けさせることを目的としています。

以下は北欧のある教授の言葉です。
 「1週間という期間は短いので学生たちが問題解決ができるだろうかと心配したが、これまでのところ、そういう心配は必要なかった。学生たちはよく勉強している。学生グループ間の格差をなくすために学生グループの再編を行い対処している。グループ内の特定の学生だけが熱心であってはならない。その点をチューターは把握することに努めている。」。

 「卒業して困難な症例に遭遇した際に、これまでの教育を受けている歯科医は自分で考えることもなく大学病院へ紹介してそれで終わりにしてしまう。この教育を受けた歯科医は、そうした場合にこの病変は何だろうかと考える力とそれを調べる能力をもっている。歯科医師としての能力は高くなっている。」。

 狭義のPBL教育は、北欧や英国の一部の歯学部で行われているのが現状です。しかし、以下のようなPBLの変法が多くの教育の場で利用されています。

・Integrated problemーbased learning (IPBL):講義への応用
・Clinical practiceーbased learning (CPBL):臨床での応用
・Problemーbased learning seminar (PBLS):セミナーへの応用

参考資料:
Barrows, HS and Tamblyn RM. Problemーbased learning: an approach in medical education. New York: Springer Publishing Company, 1980.

Introduction adelaide dental students to a problem based learning curriculum.
Frances Greenwood, et al.
European Journal of Dental Education 3: 15ー19, 1999.