英国の歯科医療は、The National Health Service (NHS)によって管理されています。NHSはDepartment of Health(厚生省)の監督下にあります。
NHSの精神は「良質の医療と歯科医療が、どこに住んでいようとも、収入がいくらであろうとも、すべて等しく無料で医療を受けることができるようにすること」です。日本の保険診療に該当するものだと思います。
 英国内は多くの地域に分割され医療を管理されています。それぞれの地域にその地域の医療を担当するHealth Authority (HA)が統括するNHS trustという管理組織があって、病院や地域医療サービスのスタッフを雇用しています。しかし開業医師・歯科医師はNHS trustの管理から独立しています。
 
Community dental service

 NHS trustによって管理され、かつてschool dental serviseと呼ばれていた医療機関で、歯科検診や子供、妊産婦の歯科医療を行っていました。現在ではこれらの業務に加えて、さらに身体障害者や老人の歯科医療、一般歯科医のために全身麻酔と矯正の設備、地域の健康管理を行っています。
 ここに勤務する歯科医師による治療だけでなく、その地域の歯科医療にたずさわる病院スタッフや開業歯科医の協力で運営されています。

Hospital dental service(病院歯科)

 NHS trustによって管理運営され、病院内外の患者の歯科診療と地域の開業歯科医からの紹介患者への非常勤の口腔外科医や矯正歯科医による診療をおこなっています。

General dental service(開業歯科)

 英国の歯科医療をになっているのは開業歯科医たちです。彼らもその地域のHealth Authority (HA)の監督下におかれ、NHSの診療を行った際にの診療請求はDental Practice Board (DPB)によってチェックされ医療費が支払われます。
 開業歯科医は設備を自分自身で準備します。NHS保険診療の患者だけでなく、保険外の患者の治療も行うことができます。

歯科医師の年間所得


開業歯科医師
(これに保険外の自費診療が加算される)
35000ー40000ポンド (約700ー850万円)
Community Dental Service勤務歯科医 22620ー32940ポンド (約450ー700万円)
病院勤務歯科医 45740ー59040ポンド (約1000ー1200万円)

(資料:Getting into Dental School)

歯科医師分布状態


開業歯科医(NHS保険診療・保険外診療)
19500
開業歯科医(保険外診療)
500
20000
          
Community Dental Service勤務歯科医
1500
病院勤務歯科医
1500
3000
           
教育職・研究職の歯科医
600
600
軍隊勤務歯科医
400
400
           
海外で働く歯科医
1400
            
退職者・非勤務歯科医
2000
3400
           
合計
27400

(資料:Getting into Dental School)

英国の歯科医師数

 英国の歯学部卒業生に対する歯科医師国家試験制度は英国にはありません。英国の歯学部を卒業した後にGeneral Dental Councilに登録されることで英国内で歯科医師として働くことが許されます。

 英国内には1999年1月の集計では29951人の歯科医師が働いています。EU圏の歯学部を卒業した歯科医師はEU圏内のいずれの国でも歯科医師として登録され歯科医療を行うことができます。


1999年1月の集計英国内の歯科医師は、
イングランド
23263人   
ウエールズ
1313人   
スコットランド
2810人   
北アイルランド
992人   
海 外
1573人   
合 計
29951人   
  (EEA諸国と歯科医師免許を許可されている旧植民地を含む)
 医師免許を同時に持つ歯科医師数は394人。


 女性は9045人(30.20%)で、最近では歯学部志望者の半数は女性が占めています。(The Dentists Register 1999. General Dental Council)

歯科治療費について

 患者はNHS保険歯科治療の80%を支払いますが、340ポンドまでという上限が設定されています。NHS契約の歯科医の患者の1/3は治療費が無料の子供や妊産婦が占めています。一年間の英国人一人あたりの平均の歯科治療費は34ポンド(約7400円)で、歯科治療費用の総額は年間140億ポンドになっています。
 一方、保険会社による医療保険制度は、保険会社との契約が行われている医師・歯科医師による医療が対象であって、通常こうした契約を結ぶことができるのは専門職としての長いキャリアや専門医資格を有している医師・歯科医師に限られているようです。

 専門医による手術と一般歯科医による手術の料金の相違についてはNHS保険診療で行う限りには差はありません。しかし保険外診療の場合は専門医でも一般歯科医でも自ら治療費を決めることができるために、専門医であるか否かによる格差はないようです。

以下の条件の患者はNHS保険では無料となっています。
 ・18歳以下の子供 
 ・妊産婦と1歳以下の子供を持つ母親
 ・学校、大学に在学中の19歳以下の学生
 ・公的な財政的な援助を受けている人

NHSの歯科治療費基準(単位:ポンド)


歯科検診料:4.62ー6.96, レントゲン写真:小2.32 大7.12,
スケーリング・歯面研磨:7.32, アマルガム充填:4.96ー12.80,
レジン充填:9.32ー16.44, 根管充填:20.56ー49.84,
抜歯1歯につき:4.56ー8.32
(智歯抜歯と難抜歯は加算),
上下顎総義:100.96,
義歯裏装:20.76ー34.60,
レジン製の局部床義歯:40ー70, 一部金属の局部床義歯:90ー125,
矯正:70ー200, 小児治療:無料,
訪問歯科治療:無料, 金属冠:50ー100,
前装冠:60ー65, インレー:40ー75,
ブリッジ:200


参考資料:
http://www.derweb.ac.uk

National Health Service Dentistry in the United Kingdom
Professor Malcom Harris 99年5月16日広島大学歯学部講演要旨