英国では歯科医師は歯科治療時であっても全身麻酔を行うことはできません。鎮静法は行うことができますが症例数は減少しているようです。
 1998年11月にGeneral Dental Councilは一般歯科治療における鎮静法と全身麻酔の使用について厳しい通達をだしました。これにより英国内で一般歯科治療時の鎮静法や全身麻酔法が著しく減少すると見込まれています。
 General Dental Councilは全身麻酔が危険を伴う処理であることを明記し、この使用については他にこれに替わる方法がない時に限るとしています。また、文書による麻酔についての説明と承諾、全身麻酔下にどのような歯科治療を行うかについての文書による説明と確認を求めています。

 全身麻酔は麻酔専門医の資格をもつ医師か、認定を受けているか、それに同等の医師によって行われることを規定しています。術前術後の検査や術中・術後のモニターや回復室の規定など厳しく制限する規定です。
 全身麻酔下の歯科医師の介助につく歯科看護婦についても十分にトレーニングを受けた者と行うことを明記しています。こうした通達にもかかわらず1999年8月に歯科治療時の鎮静法において小児が死亡する事故が起きています。

参考資料:http://www.gdcーuk.org/ga98.htm


 英国においても歯学部卒業後に研究者を志望する歯科医師は減少しています。 歯学部卒業後に卒後教育を受け、final FDS RCSの資格を修得すればconsultantと呼ばれる病院での最高位の資格につくことができます。
 研究職をめざすためにはPhD学位を修得しなければなりません。consultantになれる資格を修得した段階に比較して、さらに2ー3年のPhDコースを受けることは大きな負担であるにもかかわらず、収入に大差がないことも大きな原因であると聞きました。


       NHS(臨床) Academic (研究)  
BDS BDS
↓              ↓
       MFDS RCS MFDS RCS
↓              ↓
       Specialist Training Specialist Training
↓              ↓     
final FDS RCS final FDS RCS
↓              ↓
      Consultant (最高位の医師) PhD 2ー3年の教育
年収48000ー61000ポンド ↓  
                      Senior Lecturer(講師)
                      年収48000ー61000ポンド


 医師免許修得に際してはいくつかの大学において歯科医師のための短縮コースが用意されています。短縮コースに入学することができれば、3年半の医学部教育で医師免許を修得することができます。この短縮コースの背景には、歯学部教育の最初の2年間が医学部と共有されていることが挙げられると思います。医学部が併設されている大学では歯学部学生教育が医学部で行われています。

 歯科医師に対して3年半で医学教育を修了する短縮コースを認めている大学は、確認できた範囲では、バーミンガム大学、ガイズ・キングス・セントトーマス大学、ニューカッスル大学、ウエールズ大学の4大学です。


 英国では顎顔面外科と口腔内科は医師免許を要求されていますが、歯科医師のための医学部の教育短縮コースがあるとはいえ進学希望者は少ないのが現状です。さらに、英国ではダブルライセンスが要求される顎顔面外科のポストに空席が生じていると聞きました。
 長い研修教育期間を修了しても、実際の診療行為をSurgical Dintistryと比較した場合、Oncology(腫瘍)の治療を行うか否かという点が違うだけであること。医学部の費用を自己負担しなければならないこと。さらに英国では頭頚部腫瘍の発生率は低く、頭頚部腫瘍治療は盛んではないことから、ダブルライセンス希望者は減少しています。

歯科医師シングルライセンス    医師・歯科医師ダブルライセンス   
   Surgical Dentistry    Oral and Maxillofacial Surgery
BDS(歯科医師) BDS
     ↓                ↓
MFDS     MFDS
↓                ↓
     Specialist           Medical School(医学部)5年間
Higher Training         ↓ 医学部の経費は自己負担
PhD               1 year preーresistar
↓              ↓ 医学部の卒後教育
 修得資格:BDS, MFDS, FDS RCS, PhD  2ー3 years general surgery
    7年から10年を要する        ↓ 一般外科の研修
↓ Specialist
    NHS(診療)            Higher Training of OMFS
                      ここまでに12年から15年を要する
                      進路は臨床か研究へと別れる
                      ↓      ↓
                    NHS(診療)   academic(研究)

                            PhD 3 years


歯科外科と口腔外科の診療内容の比較
                                     
Surgical Dentistry  Oral and Maxillofacial Surgery

1. Dentoーalveolar(歯・歯槽外科) 1. Dentoーalveolar(歯・歯槽外科)
2. Trauma(外傷・骨折) 2. Trauma(外傷・骨折)
3. Orthdontics(外科矯正)       3. Orthdontics(外科矯正) 
  4. Oncology(腫瘍)       

(1) 以上のような背景から長期研修のメリットが少なく、英国では歯科医師・医師免許のダブルライセンスの希望者は減少していました。一方、Surgical Dentistryの専門医コースの希望者は増加しています。

(2) 顎顔面外科の診療は英国、北欧、ドイツ、スイスでは歯学部病院内で行われておらず、医学部附属病院か総合病院で行われていました。

参考資料:
Specialisation in Dentistry. A practical guide. ISBN 0 902166 85 9
The National Advice Centre for Postgraduate Dental Education (NACPDE)
Faculty of Dental Surgery
Royal College of Surgeons of England, 35 43 Lincoln's Inn Fields, London WC2A 3PN
Tel 0171 405 3474, Fax 0171 973 2183, Email Ffds@rcseng.ac.uk

Guide to postgraduate degrees, diplomas & courses in Dentistry
The National Advice Centre for Postgraduate Dental Education (NACPDE)
ISBN 0902166913

http://www.gdcーuk.org/speciali.htm